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立棺(りゅうかん)
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わたしの屍体に手をふれるな
おまえたちの手は
「死」に触れることができない
わたしの屍体は
群集のなかにまじえて
雨にうたせよ
われわれには手がない
われわれには死に触れるべき手がない
わたしは都会の窓を知つている
わたしはあの誰もいない窓を知っている
どの都市へ行つてみても
おまえたちは部屋にいたためしがない
結婚も仕事も
情熱も眠りも そして死でさえも
おまえたちの部屋から追い出されて
おまえたちのように失業者になるのだ
われわれには職がない
われわれには生に触れるべき職がない
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わたしの屍体を地に寝かすな
おまえたちの死は
地に休むことができない
わたしの屍体は
立棺のなかにおさめて
直立させよ
地上にはわれわれの墓がない
地上にはわれわれの屍体をいれる墓がない
わたしは地上の死を知つている
わたしは地上の死の意味を知っている
どこの国へ行つてみても
おまえたちの死が墓にいれられたためしがない
河を流れて行く小娘の屍骸
射殺された小鳥の血 そして虐殺された多くの声が
おまえたちの地上から追い出されて
おまえたちのように亡命者になるのだ
地上にはわれわれの国がない
地上にはわれわれの死に価する国がない
わたしは地上の価値を知つている
わたしは地上の失われた価値を知つている
どこの国へ行つてみても
おまえたちの生が大いなるものに満たされたためしがない
未来の時まで刈りとられた麦
罠にかけられた獣たち またちいさな姉妹が
おまえたちの生から追い出されて
おまえたちのように亡命者になるのだ
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わたしの屍体を火で焼くな
おまえたちの死は
火で焼くことができない
わたしの屍体は
文明のなかに吊るして
腐らせよ
われわれには火がない
われわれには屍体を焼くべき火がない
わたしはおまえたちの文明を知っている
わたしは愛も死もないおまえたちの文明を知つている
どの家へ行つてみても
おまえたちは家族とともにいたためしがない
父の一滴の涙も
母の子を産む痛ましい歓びも そして心の問題さえも
おまえたちの家から追い出されて
おまえたちのように病める者になるのだ
われわれには愛がない
われわれには病める者の愛だけしかない
わたしはおまえたちの病室をしつている
わたしはベッドからベッドへつづくおまえたちの夢を知つている
どの病室へ行つてみても
おまえたちはほんとうに眠っていたためしがない
ベッドから垂れさがる手
大いなるものに見ひらかれた眼 また渇いた心が
おまえたちの病室から追い出されて
おまえたちのように病める者になるのだ
われわれには毒がない
われわれにはわれわれを癒すべき毒がない
宗 左近 : 著 : 「詩(うた)のささげもの」 : 新潮社
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